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The Reflecting Skin 柔らかい殻

イギリス映画 (1990)

一面の小麦畑を美しく捉えた映像の陰に蠢く異常な人々を赤裸々に描いたフィリップ・リドリー監督独自の世界。主人公セスの一家4人は、父は “ゲイ” という “1954年の当時としては一種の犯罪歴” の持ち主。母はそんな父と結婚したせいかヒステリーを通り越し、精神異常の一歩手前。9歳のセスは、父が読んでいた三文小説の内容を真に受けてどこまでも突っ走る問題児。映画の中盤から登場する帰還兵の兄キャメロンは、配属先のビキニ環礁で被曝。そして、隣人ともいえる一人暮らしのイギリス人の寡婦ドルフィンは、来米早々の夫の首吊り自殺による強い精神的打撃を受けた中年女性で、セスは彼女を吸血鬼だと思い込む。セスには2人友達がいるが、イーベンの父は酔っ払いの変人。キムの母は自己抑制の効かない変人。この映画の登場人物は変人だらけだ。その中で、セスの友人イーベン、次いでキムが殺されていく。セスは、そのすべてを吸血鬼のドルフィンのせいだと勘違いし、捜査にあたる保安官は、ゲイだったセスの父を、途中で焼身自殺したにもかかわらず犯人だと疑い続ける。この映画の特徴は、こうした誤解が生む連鎖を、脅迫観念に近いセスの執念を中心に描いている。また、ビキニ環礁での被曝の実態を、『ロード・オブ・ザ・リング』で有名になる10年前のヴィゴ・モーテンセンにとつとつと語らせる演出も面白い。ただ、セスの表情は、時として “無表情” に近く、それはセスの強い思い込みの象徴かもしれないが、観ていて強い違和感を覚える。そして、映画の最後、自分の過ちを思い知らされたセスの絶叫。映画のラストとしては、非常に印象的だ。

セスは、捕まえた大きなカエルのお腹に空気を吹き込み、それをイギリス人の女性ドルフィンの目の前で破裂させ、彼女の顔を血まみれにする。この非常に印象的なオープニングの後、ガソリンスタンド付きガレージを営む家に戻ったセスは、下らない三文雑誌を読んでいた父が、その内容として かいつまんで話した吸血鬼の話を本当だと思い込んでしまう。時は1954年。ラジオも新聞もないような ど田舎の無教養の9歳のセスには、それを嘘だと見抜く知識も情報もなかった。一方、ガソリンスタンドには、若い男4人組が、最新式の黒のキャデラックに乗って給油に乗りつけ、セスは、憧れをもって車と男を眺める。ドルフィンからの苦情でカエルのことを知った母は、セスを謝罪に行かせる。叱られると思って恐る恐るドルフィンの家を訪れたセスは、一人暮らしの寡婦のドルフィンから優しく扱われホッとするが、ドルフィンが歓心を買おうと付いた嘘を真に受け、彼女こそ吸血鬼に違いないと思い込む。それは、家に帰り、雑誌の表紙に描いてあった女性の吸血鬼の絵がドルフィンそっくりだったことから、確信に変わる。こうして、“悪=ドルフィン、善=キャデラックの男” という図式が定着し、融通性ゼロのセスの頭は、何があろうと こ図式を改めようとはしない。最初に起きた事件は、セスの友人のイーベンが、セスの家の屋外水槽の中で死んでいたこと。ここで警察から強く疑われたのは、17歳の青年を抱いてキスをしたため、“当時としては唾棄すべき異常者” とみなされていたセスの父。セスの父は気弱なため、無実を実証する代わりに、ガソリンスタンドのオイルを浴びて焼身自殺する。それを聞いて、セスの兄が軍務を離れ、弔いのために帰宅する。兄が従軍していたのはビキニ環礁での水爆実験で、その際、死の灰で “雪合戦” をするなどしたため被曝しているが、本人にその認識はない。兄は、墓地で、夫の墓参りにきていたドルフィンに妙に気を惹かれる。そして、ドルフィンに会いに行く。セスはこっそり後をつけ、2人がキスし合っているのを見て、兄がドルフィンに血を吸われていると勘違いする。その帰り、セスはもう一人の友人キムが、キャデラックの男たちに拉致される現場を目撃するが、彼らは “善” なので 何とも思わない。そして、翌日キムの死体が発見される。セスは、それもドルフィンの仕業だと信じて疑わないので、保安官から訊かれてもキャデラックのことは何も言わない。そのうちに、原爆症で、兄が歯茎から出血したり、髪の毛が抜けたり、痩せたりすると。ドルフィンに若さを吸い取られているせいだと思い、兄に、ドルフィンは吸血鬼だから付き合うなと頼むが、兄にバカにされただけで、“吸血鬼は架空の存在” だという肝心のことは教えてもらえない。最後の場面では、ドルフィンがセスの代わりにキャデラックに乗せられ、翌日死体で見つかる。これで、セスは、ようやく、“善=ドルフィン、悪=キャデラックの男” だったと気付き、自分の愚かさに打ちのめされる。

セス役はジェレミー・クーパー(Jeremy Cooper)。1980年3月生まれで、撮影は1989年の8・9月なので、撮影時は9歳。出身は、撮影場所と同じカナダ。可愛いわけでも、演技が上手いわけでもないので、子役としてはこれ1本。なぜ彼が主役に選ばれたのだろう? “何を考えているのか分からない顔” が監督に気に入られたのか?

あらすじ

映画の中に登場する重要な自動車は、黒のキャデラック・シリーズ62(4ドア)で、この車の発売は1956年。だから、この映画の舞台は、時代考証が正確だとしたら1956年以降となる。しかし、マーシャル諸島で行われた水爆実験に携わった主人公セスの兄キャメロンが終了後に帰宅するので、1954年と解釈すべきであろう。イギリス映画だが、場面は小麦畑が広がるアイダホ州〔撮影はカナダのアルバータ州〕。この映画の撮影は素晴らしいという定評があるが、オープニング、一面の小麦畑の中から “点” のようにセスが現われるシーンも印象的だ(1枚目の写真)。最初は遠すぎて分からないが、彼は何かを抱えている。それが何かが分かるのは、セスが2人の友達に向かって、「すごいカエル捕まえたぞ!」と自慢する台詞。3人は、カエルをその辺りに1本しかない野道に連れて行く。セス:「彼女、まだ来ないよな?」「すぐにやってくるぞ、急げ!」という言葉から、セスがカエルを使って “彼女” に何かしようとしていることが分かる。キムが 「俺が膨らます番だ」と言うと、イーベンが 「違う!」と反対する(2枚目の写真、左がキム、中央がイーベン、右がセス、カエルはセスの膝の前にいる)。親分格のセスは、「黙れ!」と一喝し、「アシ持ってるか?」と要求し、キムやイーベンの抗議を無視して アシをカエルの肛門に差し込み(3枚目の写真)、中に空気を吹き込む。
  
  
  

そして、野道の彼方に “彼女” が現われると、カエルを野道の真ん中に置き、傍らの雑草の茂みの中に隠れる。イギリスから移って来た中年の未亡人は、道の真ん中で仰向けになっている風船のようなカエルに驚いて、足を止める(1枚目の写真、茂みの中に3人の顔が見える)。すると、セスがパチンコでカエルの腹を狙って石を撃ち込む(2枚目の写真)。結果は悲惨で、女性の顔は血まみれになり、悲鳴を上げる(3枚目の写真)〔カエルの血は赤いとは書いてあったが、これほど多量の血が出るとは思えない/ただ、映画のスタート僅か5分でのこの映像は極めてショッキングで、今後の展開に期待を持たせることは確か〕。セスは逃げて行く時、振り向いて様子を見てしまい、首謀者として女性に顔を覚えられる。
  
  
  

3人は、そのまま、近くにある放棄された木造の教会に向かって走っていく(1枚目の写真)。内部は、納屋のようになっていて、昔 教会だった面影はどこにもない。キム:「母ちゃんが、悪いコトだって」。セス:「何が?」。「カエルを破裂させること」。「なんで?」。「殺すことは罪だって」。イーベン:「たかがカエルだ」。キム:「殺しちゃったことに変わりない」。ここで、イーベンが話題を変える。「母ちゃんは死んだ。天国にいる」。キム:「天国じゃない、棺桶だ」。「違う。天国だ。天使なんだぞ」。セス:「天使って何だ?」。キム:「羽根の生えた赤ん坊。お前が母ちゃんを泣かせるたびに、天使を殺すんだ」。セス:「いつだって泣かせてるさ。おいらが 見てるだけで、時々泣き出すんだぞ」(2枚目の写真)。イーベン:「まばたきしない人は、天国に行って天使になれる」。キム:「お前の母ちゃんは、蛆虫に食われてるぞ」。イーベン:「違わい!」。3人の性格が分かる。それと、後で出てくる天使についての言及がある。
  
  

その後、セスが走って家に帰るシーンがある(1枚目の写真)。彼の父はガソリンスタンドや自動車の整備をやっている。セスは、家に入ると、母がいつものようにわめいている。「1日中、ごしごしこすっても、プンプン臭う。ガソリンとグリース!」。母は過労もあって若干精神のバランスを崩し、文句が絶えない。セスは、こっそり父の前のイスに座る。「息は臭いし、肌も臭い。ベッドに行けばシーツが臭い」。文句はさらに、延々と続く。「ご近所の人は、鼻をひくひくさせる。だから、必死で臭いを拭き取るのに、お前さんが家に入って来ると、また最初からやり直しだよ」(1枚目の写真。アメリカ国旗が飾ってあるのは、その中央に飾ってある写真立ての長男キャメロンのため)。母は、キャメロンの写真を取ると、「キャメロンが帰ってくれば、何もかも変わる。ガソリンの臭いで起こされるのは嫌でしょうから」「キャメロンは島の美しさに慣れてる。きれいな海、きれいな砂。自動車なんかいない、カヌーだけ〔実は、恐ろしいビキニ環礁〕。セスが、「兄さんがいなくて寂しい」と言うと、母は、一瞬笑顔になり、また元に戻る。
  
  

父は、読んでいた本を持って席を立つと、外に出て行く。セスも、母と顔を合わせていたくないので、一緒に外に出て行く。父は セスに 「ノド渇いてないか?」と訊く。それは、セスに水を持って来いと言いたかったからだ。父が、ガレージのベンチに向かうと、セスは、水を汲みに水槽に向かう。そして、蓋を開けると、コップ一杯の水を汲み(1枚目の写真)、蓋は閉めずに父の元に水を持って行く。そして、「何、読んでるの?」と訊く。「本だ」。「何の本?」。「吸血鬼だ」。「吸血鬼って何?」。「ひどい奴らだ。お前の首にかぶりついて血を飲むんだ。恐ろしいだろ」(2枚目の写真)〔この愚かな父親は、それが単なる小説のキャラクターだと一言も言わない。だから、何も知らないセスは、それを事実として受け入れてしまう〕。「なんで、そんなことするの?」。「そうしないと、年を取っちまう。だから血を飲む。飲まれた連中は、逆に年を取るってワケさ。最後には死んじまう。奴らは、日中は棺のなかで眠り、夜になるとコウモリに変身する」(3枚目の写真)。「ここら辺にも、吸血鬼はいるの?」。「どこにいても不思議はないな」。その時、セスにカエルの血を浴びせられた女性が、セスの母に文句を言っているのが見える。セスが逃げようと立ち上がると…
  
  
  

ガソリンスタンドに、田舎ではお目にかかれない黒のキャデラック・シリーズ62が入ってくるのが見える。セスは興奮し、父は放っておいて、まっすぐ車に向かう。中には若者が4人乗っている。運転している男が 「満タンだ」と言う。セスは、車を珍しそうに触りながら最後尾まで行くと、テールランプを開く〔昔の車は、テールランプが給油口だった〕。そして、給油を始める。その姿を、運連席の男は、窓のサイドミラーでじっと見ている。そして、「名前は?」と訊く。「セス」。「セス、何だ?」。「セス・ドーヴ」。「幾つだ、セス・ドーヴ?」。「もうすぐ9歳」。給油が終わると(1枚目の写真)、運転席に寄ってきたセスに、「あそこにいるのは父さんか?」と訊く。「うん」。「カカシみたいだな。君は、カカシの子か?」。「違うよ」。男は手を伸ばしてセスの頬に触りながら、「カカシならよかったのに」と言い〔カカシのように、何をされても抵抗しないという意味〕、「また会おうな」と言いながら、唇に触れる。「会いたいだろ?」。「うん」。最後は、顎を持ち上げるように触りながら、「いい子でな、セス・ドーヴ」と言う(2枚目の写真)。小児性愛者を連想させる挙動だが、セスは、車に魅かれていて気に留めない。
  
  

給油が終わり、車が立ち去ってからも、憑かれたように立ち尽くしていたセスに向かって、母の厳しい声が飛ぶ。「また、カエルを破裂させおって!」。「してない」。「嘘付くんじゃないよ」。「嘘は、あの女(ひと)だ」。「誰だい?」。「イギリス人の女(ひと)」。母は、そんな言い訳は一切信用せず、すぐ謝りに行くよう命じる。セスは、イギリス人の女性に何をされるか分からないので、恐る恐る近づいていく(1枚目の写真)。しかし、ノックに答えてドアを開けた女性は、「お入り。噛みはしないわ」と、ユーモアたっぷりに言う。いきなり引っ叩かれると思っていたセスは、無言で家に入る。「お座り」。セスは、女性の前のイスに座る(2枚目の写真)。女性は、意外なことを話し始める。「私が子供の頃はもっとずっとひどかった。猫のしっぽに花火を縛り付けて火を点けたわ。やったことある?」。セスが、“ううん” と態度で示すと、「やってみるべきよ」。そして、さらに過激な話も。「こんなことも覚えてるわ… 母さんのカナリアをオーブンに入れた。ポンと弾けた。ちょうどあのカエルみたいに」。それを聞き、セスは、自分よりワルがいたのかと安心してしまう。そして、近くに置いてあった銛や貝殻に、つい目が行く。それを見た女性は、「夫の実家は、農家になる前、捕鯨をしてたの」と話し、「それ欲しいの?」と訊く。セスは頷く。「あげる」。セスは立ち上がると、重い銛を取り上げ、嬉しそうにイスに戻る(3枚目の写真)。
  
  
  

セスは、今度は、棚の上の写真に目を留め、初めて声を出す。「あれ、誰?」。「夫のアダムよ。ロンドンで会ったの」。そのあと、話は変な方に進む。「結婚して、ここに来たの。幸せな1週間だった。その次の日、納屋に行ったら、首を吊って自殺してた。顔は真っ赤、舌は真っ青、目が飛び出てた」。このひどい話のあと、女性は、「彼、いつも私を抱いて歌ってくれた」と言い、『You Are My Sunshine』を歌い出す。「♪君は僕の輝く光、たった一つの太陽、曇り空でも君の存在が 僕を幸せにする」。ここまで歌ったところで、本音を語る。「私の人生に “輝く光” などない。私は光が大嫌い。時々、恐ろしいことが 当たり前に起こるの」。その話に耐えられなくなったセスは、写真を見て 「だいぶ違っちゃったね」と言う(1枚目の写真)。「彼が、私を若くしてくれたの。彼なしでは、私は刻々年を取っていく。朝起きても 抜け殻はベッドの中。鏡なんか見たくもない」。そして、重大な質問。「私、何歳だと思う?」。「50?」〔子供にとっては、中年女性でも老女に見える〕。この返事に、女性は悪乗りする。「お世辞がうまいのね。違う。もっとずっと年寄りよ。200歳なの」。これまで女性が話してきた太字の言葉の最後に「200歳」というあり得ない年齢を聞かされたセスは、この女性こそ吸血鬼に違いないと思い込む(2枚目の写真)。そのあとで、女性はセスを近くに座らせ、夫の遺品を見せる。「これ、何だか分かる?」。「髪の毛」。「そうよ。夫の髪の毛」(3枚目の写真、矢印)〔この髪の毛は、“吸血鬼により精力を吸い取られて抜けた髪の毛” だとセスは解釈し、あとで重要な意味を持つ〕。セスは、カエルのことを叱られるどころか、銛までをもらって家に帰るが、女性を危険な存在とみなすようになってしまう。
  
  
  

夜になり、ベッドに入ったセスは、マッチでランプに火を点けると、吸血鬼の本を取り出す。表紙に描かれている吸血鬼は、イギリス人の女性そっくりだ(1枚目の写真)〔吸血鬼といえばドラキュラで、男性であることが定番なのに、なぜ女性なのだろう?〕。セスは、この絵を見て確信する。「あの女(ひと)は吸血鬼だ」。そこで、パチンコを取り出すと、Y字型の木の枝を折って十字架を作る〔十字架のことをいつ知ったのだろう?〕。すると、そこに母が入ってくる。「まだ起きてるの?」。「ちょっとだけ」。「寝る時間でしょ」。母は、ランプに近づく。「消さないで」。「何なの?」。「別に」(2枚目の写真)。「もう寝なさい」。「でも…」。「水が欲しいの?」。「ううん」。「じゃ、消すわよ」。母は、ランプを吹き消して部屋を出て行く。セスはすぐにマッチを擦って火を点けるが、そういうこともあろうと部屋を覗いた母が、「水!」と命令する。キッチンに連れて来られたセスは、カップ一杯の水を無理矢理飲まされる。「一滴残さず」。セスが咽るだけでちっとも飲まないのを見た母は、セスの顔を反らせ、鼻をつまんで口を開かせると、水を口に流し込む。「お腹が破裂するまで飲むのよ! 一晩中かかっても 全部飲ませますからね!」(3枚目の写真)〔何の意味があるかの分からないが、異常であることは確か〕
  
  
  

そこに、父と、イーベンの父親が入ってきて、この一種の虐待は中断される。理由は、イーベンが夜になっても戻って来なかったため。イーベンの父親は シェリフに連絡をと主張するが〔午前中の会話で、母は死んでいる〕、セスの両親は、何がどうなっているか分からない段階では早過ぎると 待ったをかける。セスの父は、少しでも協力しようと、セスに 「最後にイーベンを見たのはいつだ?」と訊く。「今朝」。イーベンの父親は、いきなりセスをつかむと 「主が連れていったのか? 天使が降りてきて、小麦畑から引き抜いたのか? 主が 『あいつの親父は罪びとだから、一緒にいても幸せにはなれん』と言われたのか?」と、問い詰めるように訊く。翌日、セスとキムは放棄された教会で会う。セスは、さっそく、「あの女は吸血鬼だ。若返るために血を飲む。鏡に映らないから鏡なんか見ない。太陽が嫌いだから、サングラスかけてる」と教える(2枚目の写真)。「何で分かる?」。「おいらをまっすぐ見て言ったんだ。200歳だって」。「イーデンを殺したと思う?」。「きっとそうだ」(3枚目の写真)。「なんで?」。「血を飲むためだろ、バカだな。血を飲まないと体が崩れちゃうんだ。『朝起きても 抜け殻はベッドの中』って言ってた」。
  
  
  

2人は、証拠を見つけようと、イギリス人の女性の家に窓から侵入する(1枚目の写真)。キム:「何を探すんだ?」。「棺だ」。「棺?」。「どこかにあるはずだ。そこで寝るんだ」。「寝室に行ってみようぜ」。2人は2階にある きれいに整えられた寝室に入って行く(2枚目の写真)。それからの行動は、悪意としか思えない。セスは、サイドテーブルに置いてあった頭ほどもある立派な貝殻を投げたり、純金製のティーポットや1人用の陶器のティーカップを床に投げ捨て、本を破る。キムは、花瓶の花をベッドにまき散らす。そして、2人でベッドの仕切り幕をめちゃめちゃにする(3枚目の写真)。棺探しが脱線して破壊行為に至った主因はセスにある。この辺りから、セスの行為が極めて不愉快に思えてくる。
  
  
  

2人がベッドの上で、満足そうに寝転んでいると、玄関のドアが開く音がする。2人はこっそりと階段を降りる。居間では、イギリス人の女性がイスに座り、変な行動を取っている。2人は、階段の手すりの隙間から その様子をじっと窺う(1枚目の写真)。女性の行動の意味はよく分からないが、自分自身を愛撫しているようにも見えることから(2枚目の写真)、独り身の寂しさが欲求不満につながっていたのかもしれない。セスは、それを吸血鬼の儀式の一種だと思い込んだようだ。2人は、女性が夢中になっている間に、階段を降り 窓から出ようとするが、見つかってしまい、大声で悲鳴を上げる。そして、2人は家から飛び出して逃げて行く。
  
  

セスが走って戻ってくると、父がまたガレージのベンチで本を読んでいる。「喉、乾いたか?」。「ううん」。「走ってきたんだろ?」。「ちょっぴり。父ちゃん、水欲しいの?」(1枚目の写真)。「少しな」。セスは、水槽まで走って行き、いつものように蓋を開けると、思わず 手に持っていたコップを落とす。イーベンが水に浮いていたのだ(2枚目の写真)。これで、事件は失踪から殺人に。一番の容疑者は、当然、水槽の所有者、セスの父だ。保安官代理が一家3人を呼んで話を聞いている。「もう一度、おさらいしましょうか?」。母:「何度、同じ質問に答えさせるつもり? 知ってることは全部話したわ」(3枚目の写真)。「それは、私が判断します。それとも、質問を忌避される理由があるのですか?」。「理由? なぜ あたしに理由なんかあるのよ」。「ティッカー保安官はご存じ?」。「よく知ってるわ」。「保安官は、あなたの旦那さんについて、いろいろとご存じのようですよ」。話がここまで来た時、母は、セスに 「2階にお行き」と命じる。
  
  
  

セスは、席を立つと、2階に上がるドアをバタンと閉め、あたかもいなくなったように見せかけると、ドアの陰で3人の話を盗み聞きする(1枚目の写真)。妻:「保安官は、あんたに何を話したの?」。保安官代理:「よくご存じのはず」。「何年も前のことじゃない! また蒸し返す気?」。「当然でしょうな」。夫が、すすり泣く。妻は 「おやめ。不利になるだけじゃないの」と、夫を厳しく諫める。「保安官の話じゃ、納屋の中で少年と抱き合ってキスしていたとか」。「少年じゃない。17歳だったわ。それに、何年も前の…」。「保安官は、むかむかすると言ってますよ。男同士でキスするなんて。今度は、罰せられずに済むと思ったら大間違いですぞ」。父は 「わしは、何もやっとらん」と半泣き状態で否定するが、保安官代理は、「いつでも逮捕できるんですぞ」と一歩も譲らない。「何の罪で? 夫は何もしてないのよ!」。「保安官は、キスから殺しまでは、ほんの一歩だと考えています」。これだけ言うと、保安官代理は引き揚げる。妻は、2人だけになると 夫の頭を叩く。夫が子供のように悲鳴を上げると、妻の暴力は激しさを増し、顔を平手で何度も叩きながら 「この恥知らず! もうガマンできないわ!」と叫ぶ(2枚目の写真)。セスは、その光景を怖そうに見ている。
  
  

自分の人生に嫌気がさした父は、立ち上がると家を出て行く。心配になったセスは後を追う。父は、まっすぐガソリンの給油機に向かうと、給油ノズルを手に持ち、ガソリンを噴出させる。そして、それを飲み、さらに頭からかける(1枚目の写真)。セスは恐ろしそうに見ているだけ〔セスは、なぜ叫んだり、止めに入ったりしないのだろう?〕。父がマッチを擦ると、辺り一面が火の海になる(2枚目の写真)〔妻の叫び声が収録されているが、火を点けたのはまだ昼間だったのに、このシーンは夜。映像効果を狙っているのかもしれないが、違和感は消えない〕
  
  

この惨事からどのくらい日数が経ったのかは分からない。ある日、セスが星条旗を背にはためかせて小麦畑を全速で走っている。そして、いつもの野道に出れると、向こうから歩いてくる背の高い男性に向かって抱きつくように飛びかかる(1枚目の写真)。それは、兄キャメロンだった。「寂しかった」。「大きくなったな」。「兄ちゃんだって」。「そうか?」。ここで、セスは父の自爆について話し出す。「爆発したんだ! ドカン!」。「その話はやめよう」。「夢に見るんだ」。「相変わらず冴えない風景だな。何で国旗なんか?」。「兄ちゃんのためだよ。ヒーローだろ?」。「違う」。2人は家に向かう。ベランダまで来た兄は、「まだガソリン臭いな」という。「臭わないよ」。「お前、ガソリンが好きだからだろ」。キッチンのテーブルに座った兄に、セスは、クッキーとミルクを出し 「懐かしいの?」と訊く。「何が?」。「きれいな島」(2枚目の写真)。「そうかもな」。「戻りたい?」。「いいや、ここにいる」。そこに母が入ってくる。久しぶりの息子を一旦は抱擁するが、キャメロンが嫌がると、一転して不機嫌になり、「どいて! 邪魔よ!」と小突く。キャメロンが、「やめろよ!」と怒鳴ると、今度は、テーブルの上のクッキーとミルクを片付けようとする。その時セスに言った言葉が、「きれいにしとかないと。父ちゃんがすぐ戻って来るだろ」。精神に異常がきたしている。それを聞いたキャメロンは、「親爺は死んだ!」と怒鳴る。母は何も言わない。キャメロンはセスを連れて父の墓に行く。「親爺は、いつも三文雑誌を読んでて〔吸血鬼もその1つ〕、俺には何一つ話しかけなかった」「親爺は、血を見るのが耐えられなかった。だから、鶏はいつも お袋が殺してた」。兄はセスに墓参の花束を渡しながら、昔の話を聞かせる(3枚目の写真)。さらに、「親爺の夢は養蜂家になること。ガレージを始めたのはお袋の考えだ」とも〔そのくせ、母は、ガソリン臭いと文句ばかり〕
  
  
  

そこに、保安官が現われ、「ちょっとセス坊やと話したいが、構わんか?」と断り、パトカーに連れて行く(1枚目の写真)。保安官は、セスに自分の傷を見せる。「犬に、耳を食いちぎられそうになった。それから、蜂に目を刺された」〔左目に、金属の眼帯をつけている〕。30年 保安官をやってきて、タチの悪い動物と闘ってきた〔ここでは、動物は人間を指す〕。だが、今や、新種の動物が出てきた。見たことのない奴だ。子供に手を出す動物だ」(2枚目の写真、イギリス人の女性が遠くに見える)。保安官は、さらに続ける。「怪物は、まだ どこかに潜んでいるかもしれん。それとも6フィート下か〔墓の中〕。多分、君のお父さんが、秘密を墓に封印したんだろう」。この “思い込みに端を発した間違った憶測” の後、保安官は、セスに、微妙なことを訊く。「君は、父さんに触られたことあるか?」。質問の主旨がセスに伝わらず、保安官は、セスの陰部に触ったことがあるかと訊く。セスは、即座に否定する(3枚目の写真)〔父は、ゲイであって、小児性愛者ではない〕
  
  
  

先ほどチラと映ったイギリス人の女性は、夫の墓参りに来ていた。そして、キャメロンを見て 「お父さん、お気の毒に」と言い、夫の墓に花を添える。「窓から燃えさかる炎が見えたので、何だろうと思ったわ。きれいだったので」。「きれいとはね」。「愚かなことを言ってしまって ごめんなさい、キャメロン」(1枚目の写真)。「もう一度 言ってもらえますか。名前を」。「キャメロン」。「ご存じですか? あなたのアクセント。何もかも、きれいに響きます。あなたの名前を、ぜひ聞かせて下さい」。「ドルフィン・ブルー〔青いイルカ〕よ」。キャメロンは珍しい名前に驚くが、それは顔には出さず、墓を見て、「天使に何が起きたんです?」と訊く。墓は、1枚目の写真からも分かるように、中央に子供の足が2本だけ彫られ、墓石の両脇に羽が置いてある。「時間よ。天使といえども いつかは羽を失うの」。そこに、保安官の聴取を終えたセスがやってきて、「兄ちゃん」と手を引っ張る(2枚目の写真)。セスを見た女性は 「あら、破壊魔くんじゃないの」と、皮肉を込めて言う。キャメロン:「今、何て?」。「セスはちゃんと分かってるわ」。セスは謝ろうともせず、「行こうよ、兄ちゃん」と、より強く手を引っ張る。兄は、それを撥ねつけ、「帰れ。家で待ってろ」と言うが、セスは 「その女(ひと)と話しちゃダメ」と付きまとい、兄から 「失せろ!」と怒鳴られる。ドルフィン・ブルーは、争いの場を何も言わずに立ち去る。兄は 「殺してやる」とセスに言うと、地面に押し倒す(3枚目の写真)。そして、ドルフィン・ブルーの後を追っていく。
  
  
  

セスとキムは話しながら放棄された教会に向かう。キム:「母ちゃんが言うには、お前の親爺は変態だって」。「変態って?」。「子供が好きな大人」。「なら、父ちゃんは違うな」。「ウチもだ」。「兄ちゃんが帰って来た」。「知ってる。母ちゃんから聞いた」。「今日、『あの女』 と会ったんだ」。「吸血鬼と?」。「ああ」。「首を噛んだのか?」。「さあ」。「どうする気だ?」。「何とかしないと」。2人が教会(というか、藁だらけの納屋)に入ると、変な臭いがする。そこで、2人は臭いの元を捜し始める。先に見つけたのはセス。それは、新聞紙を重ねて作った卵型の器に入れられた赤子の屍蝋〔蝋のように変質した死体〕だった。「魚みたいな臭いだ」「これ、きっと天使なんだ」。そう言うと、セスは屍蝋を手に取る(1枚目の写真)。「イーベンかも」。「なんで あいつが天使に?」。「兄ちゃんがいなくて寂しいって母ちゃんに言ったら、泣き始めた。だから、現れたんだ」〔論理矛盾〕。「誰が言った?」。「そうに決まってる」。「イーベンみたいだな。だけど、天使なら、なぜ天国にいない?」。「殺されたからだ。殺された天使は天国に行けない。羽を裂かれて落ちてきたんだ」。「誰が言った?」。「そうに決まってる」〔独断専行〕。セスは、屍蝋を家に持って帰ろうとして、どっちがより親しい友人かで言い争うが、結局、①力が強くて、②生意気で、③言い出したらきかない、セスが持ち帰ることになる〔嫌な性格〕。自分のベッドの上に屍蝋を置いたセスは、屍蝋に向かって、「兄ちゃん、あいつに殺されちゃう。君が あいつに殺されたように」と、すべてドルフィン・ブルーのせいにして、誓う。「心配するな。あいつを見張ってるからな」(2枚目の写真)。
  
  

翌朝、セスが目を覚ますと、兄が、1階から、「セス、ちょっと出かけてくる」と呼びかける。セスは 急いで窓まで行き 「どこに行くの?」と尋ねる。「ドルフィンさんの家だ」(1枚目の写真)。これは一大事なので、セスは大急ぎで着替えると、ドルフィンの家に向かう。前回侵入した窓には鍵がかかっていて、玄関も開かない。しかし、裏口のドアが開いていたので、そこから侵入する。セスは、2人の声が聞こえる2階に向かって階段を上がる。ここで、キャメロンが話すことは、滅多に映画では取り上げられない重要な内容。ドルフィンがロンドンの空爆の話を終えたあとで、キャメロンは、「俺は、大きな爆弾をいろいろ見てきた。最大の奴もな」と静かに話す。「どこで?」。「太平洋で」(2枚目の写真)「俺の配属先だった」。「そこで何をしていたの?」。「吹き飛ばしてた」。「島全体を?」。「ああ、そうなんだ」。「危険じゃない?」。「あんまり。俺たちは遠くから見てた。サングラスをして。だが、メチャメチャ眩しかった。あんなのは見たことがない。7月4日〔独立記念日〕の花火の百万発を合わせたみたいだ。先住民はカヌーで沖へ出て行った。それから、銀色の雪〔死の灰〕が船に降ってきた。俺たちは、それを丸めて雪合戦をした。爆発の後、海面は ゆでた魚で一杯になった。俺たちは好きなだけすくって食べた。夕日はピンク色だった。明るいピンク。これまで見たこともないようなピンクだった」。キャメロンは、そうつぶやくように言うと、首をうなだれてしまう。ドルフィンは、キャメロンの首を持ち上げるとキスをする。シャツを脱がせ、首筋にキスをする姿は、覗き見るセスにとっては、吸血鬼が血を吸っているように見えたことだろう(3枚目の写真)。映画の冒頭のあらすじで、この映画の “現在” は1954年だと書いた。それは、1954年にマーシャル諸島のビキニ環礁で7回の水爆実験〔Operation Castle〕が行われたからで、ロンゲリク環礁に駐留していた28人のアメリカ兵も被曝したとされる。キャメロンが述べたようなことを立証する写真をネット上で見つけることはできなかった。
  
  
  

セスは、怖くなって家から逃げ出す。すると、途中で国旗をはおったキムの姿を見つける。セスが 「キム!」と呼ぶと、キムはセスに向かって歩き始める。ところが、そこに黒いキャデラック〔黒は死の象徴〕が乗り付け、4人の男が車から外に出る。運転席の男が 「こっちへ来い」と言ってキムを捕まえると(1枚目の写真)、泣き叫ぶキムを無理矢理車に押し込む。セスは、それをじっと見ているだけ(2枚目の写真)〔この辺りのセスの行動が全く理解できない。キムは友達なのだから、叫ぶなり、助けに行くなりしても罰は当たらない。この、“何の感情もない顔” で、監督は何を言いたいのだろう?〕〔普通の少年なら、イーベンの死も彼らの仕業だと疑うはず〕。逆に、この愚かで 偏執狂の少年は、翌朝目が覚めて洗面に行った時、兄のクシを見て、抜けた毛が大量に付いているのに気付く。そして、そのクシを自分のベッドまで持って行くと、ベッドの下から屍蝋の入った木箱を取り出し、それを “イーベンの天使” に見せながら、「見てみろ。遂に起きちゃった。あいつ、兄ちゃんを殺そうとしてる」と、妄想を深める(3枚目の写真、矢印はクシ)。
  
  
  

イーベンの父親が手に石を持ち、セスの家に向かって 「人殺し!」と叫ぶ。それに気付いたセスは、至急兄を起こしに行く。イーベンの父親は、石を窓ガラスに投げつけ 「出てきやがれ!」と要求する。ガラスの割れる音で、ただ事でないと悟った兄は、上半身裸のままで外に飛び出して行く。イーベンの父親は、かなり酔っ払っているようで、キャメロンに 「俺に会わせろ」と要求する。「誰に?」。「人殺しだ」。「ここには、人殺しなんかいない!」。「連れて来い」。兄はセスに 「何の話だ?」と訊く。「父ちゃんのことじゃないの?」。「親爺は死んだ」。「死んどらん」。「何をバカ言ってる?」〔この父親は、キムが新たに行方不明になったことで、セスの一家に復讐にやって来たのか?〕。しばらくしてから、セスがキムの家に様子を見に行く。すると、ここでも、半狂乱のキムの母が、セスを犯人扱いする。保安官が 「セス、キムを見たか?」と質問すると、ここでまた疑問符。セスは 「ううん」と否定する。なぜ、キャデラックの男達に拉致されたと言わないのだろう? すべて吸血鬼のせいだと思っていたとしても、ここで嘘を付く理由は何もない。キムの母は 「嘘つき!」と怒鳴り、そのあと、聞くに堪えないような罵詈雑言をセスに浴びせる〔この箇所に対して、演技過剰で不快だとの批判もあるが、確かに、セスを怒鳴る理由などない。もちろん、セスが “拉致” のことを黙っているのは許されないことだが…〕。母親が狂っている間に、保安官代理が、キムの家の小屋から 旗に包まれたキムの遺体を発見する(1枚目の写真)。保安官はセスの肩に手をやると 「私の考えを教えてやろうか? 君の父さんはまだどこかに隠れていて、子供を殺している。何としてもその秘密を見つけだすからな。たとえ、胡桃を割るように取り調べるとしてもだ」と、脅すように言う(2枚目の写真)〔保安官は、父親の焼身自殺の現場を見ていないので、自分の “見立て違い” を隠す意味でも、愚かな推論にしがみ付いている/セスの黙秘は父の名誉挽回をも妨げている。なぜ彼はキャデラックのことを話さないのか? この脚本は絶対に間違っている〕
  
  

セスが家に戻ってミルクを飲んでいると、そこに兄が来て 「口を中を見てくれ」と言い、セスの前に膝をつくと、口を大きく開ける(1枚目の写真)。「何かないか? 血の味がする」。「歯ぐきだよ。出血してる」。今度は鏡の前に立つと、「痩せてしまった。ベルトの穴2つ分だぞ」と言う。「ハゲかけてるよ。クシに毛が付いてた」〔すべて原爆症〕。そして、ソファに座り込んだ兄に、セスは 「話さなきゃならいことがある」と言うと、キッチンテーブルから兄の横に移る。そして、「兄ちゃんが なぜ老(ふ)けてるか知ってるよ。あの女のせいだ」。「誰?」。「ドルフィン」。「何が言いたい?」。「あいつ吸血鬼なんだ」。このバカげた告発に、兄は思わず笑う。「信じてくれないだろうとは分かってた。だけど、吸血鬼で、お兄ちゃんの血を飲んでる」(2枚目の写真)「だから、兄ちゃんは老けて、あいつは若返ってるんだ!」。「このバカたれが!」。「ホントだよ!」。「本気で信じてるのか?」。「もちろん!」。「なら、お前はキチガイだ!」。怒った兄は家を出て行くが、セスは しつこく後を追う。「母ちゃんと2人だけにしないでよ!」。「黙らんか! 母さんなら大丈夫。前より良くなった。料理も家事もできるし、ガミガミ言わない」。「あいつのトコに行っちゃダメだ! 吸血鬼だから、殺されちゃう!」。兄は、遂に堪忍袋の緒が切れる。セスをドラム缶に押し付けると、「いいか よく聞け。俺は彼女を愛してる! 彼女も俺を愛してる。分かったか? 俺は彼女と暮らして幸せになる。お前には一切 邪魔立てさせん。よく覚えとけ!」と怒鳴る(3枚目の写真)。
  
  
  

翌日、もしくは、別な日、セスが未舗装道路の交差点までくると、そこにはドルフィンがいた。セスは 「何か待ってるの?」と声をかける。ドルフィンは 「車をね。町に行きたいの」と答える(1枚目の写真)。ドルフィンは、セスが何を考えているか分かっているので、「彼を愛してるの。心から。世話をするわ。私といれば安全よ」と話しかける(2枚目の写真)。すると、遠くの方から黒いキャデラックが走ってくるのが見える。十字路で停まったキャデラックにドルフィンが歩み寄る。しかし、運転している男がまず声をかけたのはセス。「おやおや、カカシの子じゃないか。セス、乗りたいか?」。セスは 「ううん、まだ いいよ」と断る。これを聞いていたドルフィンは(3枚目の写真)、「あんたたち、どこに行くの?」と、車内を見まわして尋ねる。「あんたは?」。「町まで」。運転席の男は、ドルフィンを機嫌よく後部座席に座らせる。男は、セスに 「今日は美しい日だな」と声をかけると、車を出す。セスは、車が走り去るのをじっと見ている〔彼の顔は何を考えているのか全く分からない。男達が吸血鬼の仲間だと思っているのだろうか?〕
  
  
  

時間の経過は分からない。セス、兄、母の3人がベランダに座っていると、パトカーが停まっているのが見える(1枚目の写真)。何事かと思った兄は、パトカーに向かって歩き、セスはなぜかそれを止めようと 「待ってよ 兄ちゃん、家に戻ろう」と 食い下がる〔なぜだろう? 理由が全く分からない〕。パトカーの先の小麦畑の中には6人の人が固まっていた。近づいていくと、ドルフィンが横たわっていることが分かる。兄は、最愛のドルフィンを失い、泣き崩れるように死体に抱きつく(2枚目の写真)。
  
  

ようやく真相を悟ったセスは、そこから逃げるように小麦畑の真ん中に向かって走り出す(1枚目の写真)。そして、ひざまずくと、自分の愚かさを恥じて絶叫する(2枚目の写真)。
  
  

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